Loading...

スタートアップが学ぶべき最も難しい教訓

Original

2006年4月

(このエッセイは2006年のStartup Schoolでの講演から派生したものです。)

これまでに資金を提供してきたスタートアップは非常に素早く学習しますが、ある教訓を学ぶのは他の教訓よりも早いようです。これは、スタートアップについていくつかの直感に反するものがあるためだと思います。

これまでに投資してきた企業が十分にあるので、どの点が直感に反しているかを見分ける方法を学びました。それらは、私が繰り返し述べなければならないポイントです。

そこで、これらのポイントに番号をつけ、将来のスタートアップに対してはハフマン符号化の手法を使えるようにしようと思います。これらを全員に読んでもらい、詳細に説明するのではなく、単に*「ナンバー4!」*と言えば済むようにしたいと思います。

1. 早期リリース

おそらく私が最も繰り返しているのは、スタートアップのための次のようなレシピです。バージョン1を素早くリリースし、ユーザーの反応に基づいて改善していく。

「早期リリース」と言っても、バグだらけのものをリリースするということではありません。最小限の機能しか持たないバージョン1をリリースすればよいのです。ユーザーはバグが嫌いですが、すぐに改善されていくものであれば、最小限のバージョン1でも問題ありません。

バージョン1を素早くリリースする理由がいくつかあります。1つは、スタートアップであろうと、そうでなかろうと、ソフトウェアを書く上で正しい方法だからです。1993年から私はこれを繰り返し言っていますが、それに反するものはほとんど見つかりません。リリースが遅すぎて死んでいったスタートアップは多数見てきましたが、リリースが早すぎたために死んだスタートアップは1つも見たことがありません。[1]

人気のあるものを作ると、ユーザーがよくわからないということに驚かされます。Redditには今では月間50万人以上のユニークビジターがいます。一体誰なのでしょうか? 彼らには全く分かりません。Webスタートアップにはそれがよくあることです。ユーザーがよくわからないのに、彼らの好みを推測するのは危険です。リリースして、ユーザーに教えてもらうのが賢明です。

Wufooはこの教訓を心に留めており、フォームビルダーをデータベースの基盤ができる前にリリースしました。まだ動かすこともできませんが、83,000人もの人がドライバーシートに座り、ハンドルを握りました。そして、Wufooはそこから貴重なフィードバックを得ました。Linuxユーザーが Flash を使いすぎていると苦情を言ったので、ソフトウェアを書き換えて Flash の使用を減らしました。すべてを一度にリリースしていたら、この問題に気づくのが遅れていたでしょう。

ユーザーがいなくても、早期にリリースすることは重要です。スタートアップにとって、最初のリリースはシェイクダウンクルーズのようなものだからです。何か大きな問題があれば - アイデアが良くない、創業者同士が嫌いあっているなど - その最初のバージョンをリリースする際のストレスで露呈するはずです。そのような問題があれば、早期に見つけたほうがよいのです。

早期リリースの最も重要な理由は、それがあなたを一層熱心に働かせるということかもしれません。まだリリースされていないものに取り組んでいるときは、問題は興味深いものです。しかし、リリースされてしまえば、問題は警報のようなものになります。リリースすれば、ずっと切実な状況になるのです。そしてまさにそのためにリリースを先延ばしにするのだと思います。より一層熱心に働かなければならなくなるのを避けたいのです。[2]

2. 機能を次々と追加する

もちろん、「早期リリース」には2つ目の要素があり、それがなければ良いアドバイスとは言えません。わずかな機能しかないものからスタートするのであれば、それを素早く改善しなければなりません。

私が繰り返し言っているのは「機能を次々と追加する」ということです。そしてこのルールは、スタートアップとして存続し続けたい限り、常に当てはまります。

ただし、アプリケーションをどんどん複雑にしていくということではありません。ここでの「機能」とは、ハッキングの単位 - ユーザーの生活をより良いものにする1つの量子のことです。

運動と同じように、改善は改善を生みます。毎日ランニングしていれば、明日もランニングしたくなるでしょう。しかし、2週間ランニングをサボっていれば、自分を引っ張り出すのが大変です。ハッキングも同じです。アイデアを次々と実装すれば、さらにアイデアが湧いてきます。少なくとも1、2日に1度は、システムをいくらかでも良いものにしていくべきです。

これは単に開発を進める良い方法というだけでなく、マーケティングの一形態でもあります。ユーザーは絶えず改善されていくサイトが大好きです。実際、ユーザーはサイトが改善されることを期待しています。2か月ぶりに訪れたサイトで、1つも変わっていないとしたら、つまらなく感じられるでしょう。[3]

ユーザーからのコメントに応えて改善すれば、ユーザーはさらに熱心なファンになります。なぜなら、ユーザーは企業がそれらを無視するのが普通だと思っているからです。あなたが稀な例外 - ユーザーの声に耳を傾ける企業 - であれば、熱狂的な顧客ロイヤルティを得られるでしょう。広告する必要もなく、ユーザー自身があなたを宣伝してくれるはずです。

これも明らかなことのように思えますが、なぜ私がこれを繰り返し言わなければならないのでしょうか? 問題は、人々が現状に慣れてしまうことだと思います。製品がひどい欠陥から抜け出したら、人々はそれに慣れ始め、たまたまその製品に備わっている機能がその製品のアイデンティティになっていきます。例えば、Yahoo (あるいはGoogleでさえ) の人々が、Webメールがもっと良くなり得ることに気づくまでには、Paul Buchheitが示す必要があったのではないでしょうか。

解決策は、自分の作ったものはまだまだ完璧ではないと常に仮定することです。改善の余地がないかを、知的な演習として考え続けるのです。そう、今のものは完璧だ。でも、何か変えられるとしたら、何を変えるだろうか?

製品が完成したように見えるなら、2つの可能性があります。(a) 本当に完成しているか、(b) 想像力が足りない。経験から言えば、(b)の可能性のほうが1000倍高いと思います。

3. ユーザーを幸せにする

絶え間なく改善し続けるのは、より一般的なルール「ユーザーを幸せにする」の一例にすぎません。スタートアップに共通しているのは、誰も何かを強制できないということです。ユーザーにソフトウェアを使わせることも、取引を結ばせることもできません。スタートアップは自分の食事代を稼ぐために歌わなければなりません。そのため、成功しているものは素晴らしいものを作り出すのです。そうしないと死んでしまうからです。

スタートアップを運営していると、強い風に吹き飛ばされる小さな破片のようだと感じます。最も強力な風はユーザーです。彼らはあなたを空高く舞い上がらせることもできますし、ほとんどのスタートアップのように地面に押し付けることもできます。ユーザーは気まぐれな風ですが、他のどんな力よりも強力です。彼らがあなたを持ち上げてくれれば、どんな競争相手も打ち負かすことはできません。

小さな破片として、あなたがすべきことは地面に平らに倒れ伏すのではなく、風に捕まえられるような形に自分を丸めることです。

この風のメタファーは、訪問者の大多数が偶発的な訪問者であることを思い出させてくれます。あなたのサイトを設計するのはそういった人たちのためです。本当に関心のある人たちは自分で欲しい情報を見つけ出すでしょう。

ほとんどの訪問者はバックボタンの指を立てた状態で到着するでしょう。自分の経験を考えてみてください。ほとんどのリンクは退屈なものに繋がっています。ウェブを2週間以上使っている人なら、リンクをたどった後にバックボタンを押すよう訓練されています。だからあなたのサイトは「待って!バックボタンを押さないでください。このサイトは退屈ではありません。例えばこれを見てください」と言わなければなりません。

人々に立ち止まってもらうには2つのことをする必要があります。最も重要なのは、あなたのサイトが一体何なのかを可能な限り簡潔に説明することです。自分がすでに何をしているのか知っているかのように振る舞うサイトを訪れたことはありませんか?例えば、企業のサイトが

企業のリスクを最小限に抑え、価値実現までの時間を短縮し、TCOを持続可能な水準に抑えるために、人、コンテンツ、プロセスを統合するエンタープライズ・コンテンツ・マネジメントソリューションを提供している

と説明しているような場合です。

既存の企業ならそのような不透明な説明でも許されるかもしれませんが、スタートアップにはそれはできません。スタートアップは1、2文で正確に何をしているのかを説明できるはずです。

そしてユーザーだけでなく、投資家、買収者、パートナー、報道関係者、潜在的な従業員、現在の従業員にもこれが必要です。1、2文で魅力的に説明できないことをやろうとするスタートアップは立ち上げるべきではありません。

もう一つ私が繰り返し言うのは、できるだけ多くのものを最初から提供することです。インプレッシブなものがあれば、それを可能な限りトップページに置くべきです。なぜなら、ほとんどの訪問者がそれしか見ないからです。ただし、良いものをどんどん前面に押し出せば押し出すほど、訪問者にさらに探索してもらえるというパラドックスもあります。

最良の場合、これら2つの提案が組み合わされます。つまり、あなたのサイトが何をしているのかを「見せる」ことで説明するのです。小説の書き方の定番アドバイスに「言うのではなく、見せろ」というものがありますが、あなたのサイトが何をしているのかを最も良く説明できるのは、それを使ってもらうことです。

業界用語では「コンバージョン」と呼ばれています。あなたのサイトの仕事は、偶発的な訪問者をユーザーに変えることです。ユーザーの定義は何であれ、それを測定できる成長率があるはずです。あなたのサイトが広まっているか、そうでないかがわかるはずです。成長率が良ければ、どんなに無名であっても最終的には勝つことができます。そうでなければ、何かを修正する必要があります。

4. 正しいものを恐れる

よく「心配しないでください」と言っています。実際にはもっと「これについては心配しないでください。代わりにこれについて心配してください」と言うことが多いです。スタートアップは正しく警戒心を持つべきですが、時には間違ったものを恐れがちです。

目立つ災難の多くは、見かけほど深刻ではありません。スタートアップでは災難は日常茶飯事です。創業者が退社する、自分たちの特許を侵害するものがあると発見する、サーバーが頻繁にクラッシュする、解決できない技術的問題に直面する、社名を変更しなければならない、取引が頓挫する - これらはすべて当たり前のことです。あなたがそれを許さなければ、それらは会社を倒すことはありません。

ましてや大半の競争相手も大きな脅威ではありません。多くのスタートアップが「Googleがうちと似たようなものを作ったらどうしよう」と心配しますが、実際のところ大企業は最も心配する必要のないものです。Googleの人々は賢いかもしれませんが、あなたたちよりも賢いわけではありません。彼らはあなたほど強い動機を持っていません。Googleにとってこの1つの製品が失敗しても、会社自体は潰れないからです。さらにGoogleの中にも、彼らを遅らせる官僚主義があります。

スタートアップとして恐れるべきなのは、まだ存在を知らない他のスタートアップです。それらの方がGoogleよりもはるかに危険です。なぜなら、あなたと同じように追い詰められた動物だからです。

既存の競争相手だけを見ていると、安心感を得てしまうかもしれません。あなたは、人々が実際にやっていることではなく、誰かができるかもしれないことと競争しなければなりません。その派生として、まだ競争相手が見えないからといって安心してはいけません。どんなアイデアであっても、誰かがそれと同じことをやっているはずです。

スタートアップを立ち上げるのがより簡単になったことの裏返しは、それだけ多くの人がやっているということです。しかし、Caterina Fakeが言うように、これが今スタートアップを立ち上げるのに悪い時期だとは思いません。スタートアップを立ち上げる人は増えていますが、増え方以上に増えるべきです。大学卒業生の大半はまだ就職しなければならないと考えています。ウェブページを配信するのがずっと安くなったからといって、3歳の頃から刷り込まれてきたことを無視できる平均的な人はいません。

それに、競争相手が最大の脅威ではありません。自滅するスタートアップの方がはるかに多いのです。それを引き起こすのは内部の対立、慣性、ユーザーの無視の3つの主な要因ですが、それぞれだけでも会社を潰すことができます。その中でも最悪なのはユーザーの無視だと思います。スタートアップが確実に死ぬレシピは、素晴らしいアイデアを持っていて、それを誰もが愛してくれると信じ込んでいる創業者が、ユーザーの声を無視して自分の思い通りのものを作り続けることです。

ほとんどすべての初期計画は間違っています。企業が当初の計画に固執していたら、Microsoftはプログラミング言語を、Appleは印刷回路基板を販売していたでしょう。両社とも顧客に自分たちのビジネスを教えてもらい、それに従うことが賢明だったのです。

リチャード・ファインマンが言ったように、自然の想像力は人間の想像力を超えています。考えるだけでは生み出せないものを、世界を見つめることで見つけ出すことができます。この原則は非常に強力です。それが、最高の抽象絵画でさえレオナルドに及ばない理由です。そしてスタートアップにも当てはまります。プロトタイプとユーザーを組み合わせることで、考え付くことのできないような製品アイデアを発見できるのです。

5. コミットメントは自己実現の予言である。

スタートアップ創業者に最も重要な資質は、あなたが思うものではありません。それは決意力です。知性ではなく、決意力なのです。

これは少し憂鬱なことです。Viawebが成功したのは、私たちが賢かったからだと信じたいのです。スタートアップの世界の多くの人々もそう信じたがっています。創業者だけでなく、投資家も同様です。彼らは知性に支配された世界に住みたがっています。そしてこれが彼らの投資判断に影響していることがわかります。

VCが著名な教授が創業したスタートアップに投資するのは、その証拠です。これはバイオテクノロジーでは機能するかもしれません。既存の研究を商業化するスタートアップなら。しかしソフトウェアの場合は、教授ではなく学生に投資すべきです。マイクロソフト、Yahoo、Googleなどは、学校を中退して立ち上げたのです。経験が少ない学生の方が、献身性で上回っているのです。

もちろん、金持ちになりたいなら、単に決意力があるだけでは不十分です。賢くなければいけませんよね? そうしたいところですが、私にはそうでないことを示す経験があります。それは、数年間ニューヨークに住んでいたことです。

頭脳面で大幅に劣っていても、それほど大きな問題にはなりません。しかし、コミットメントが少しでも欠けると、それはすぐに致命的になります。

スタートアップを経営するのは手立ちで歩くようなものです。可能ではありますが、非常に大きな努力が必要です。普通の従業員に、スタートアップ創業者がしなければならないことをさせたら、大変な不満を感じるでしょう。大企業に雇われたとして、今まで以上に10倍速いソフトウェア開発に加え、サポート対応、サーバー管理、ウェブサイトデザイン、顧客への営業、オフィススペースの確保、社員の昼食調達などをさせられたら、どうでしょうか。

そしてこれらを、大企業のような落ち着いた環境ではなく、絶え間ない災難の中で行わなければならないのです。ここに決意力が求められるのです。スタートアップでは常に何かしらの災難が起こっています。だから、少しでも辞める口実を見つけたくなる気持ちがあれば、すぐにそれが見つかるのです。

しかし、コミットメントに欠けていれば、実際に辞める前からそれが傷つけられているはずです。スタートアップに関わる人々は皆、コミットメントの重要性を知っているので、あなたが曖昧な態度を示せば、あまり注目されないでしょう。コミットメントに欠けていれば、何か不思議なことに、競合他社には良いことが起こるのに自分には起こらないと感じるでしょう。コミットメントに欠けていれば、自分は不運だと感じるでしょう。

一方、どんなことがあっても続けていくという決意があれば、人々は注目してくれます。あなたは一時的な訪問者ではなく、地元の人間なので、誰もが折り合いをつけなければならないからです。

Y Combinatorでは時々、3か月間このスタートアップに挑戦してみて、何か素晴らしいことが起きれば続けるつもりだ、というような態度の チームに資金を提供してしまうことがあります。しかし、そのような態度では、「何か素晴らしいこと」が起きる可能性は非常に低いのです。なぜなら、買収者も投資家も、あなたのコミットメントの度合いによって判断するからです。

買収者があなたが何があっても続けていくつもりだと思えば、買収する可能性が高くなります。買収しなければ、あなたが続けていけば、価格が上がり、後々後悔することになるからです。投資家も同様です。大手VCでさえ、良い収益を期待するよりも、逃す機会を恐れているのが本当の動機です。

だから、どんなことがあっても成功するつもりだと明確に示せば、資金調達の可能性も高くなります。それ以外の理由で資金が必要なのではなく、少しでも早く実現させたいだけなのだと分からせられれば、より資金を得やすくなるのです。

これを本当に信じさせるのは難しいです。自分の命がけの決意を説得力のあるものにするには、実際にそうでなければなりません。

ただし、その決意は適切なものでなければなりません。ここでは「決意」という言葉を慎重に選びました。「頑固さ」では失敗につながるからです。決意力は必要ですが、フレキシブルでなければなりません。ランニングバックのようなものです。成功したランニングバックは、ただ頑張って突破しようとするのではありません。状況に応じて即座に対応します。前に誰かが立ちはだかれば、その人を回り込む。掴まれそうになれば、そこから逸れる。一時的に逆方向に走ることさえあります。ただし、絶対に立ち止まることはありません。

6. 常に余地がある

最近、ある スタートアップ創業者と、自社のソフトウェアにソーシャル機能を追加するのがいいかどうかを話し合いました。彼は、ソーシャル関連は飽和状態だと考えているので、必要ないと言っていました。本当にそうでしょうか。100年後も、Facebookやマイスペース、Flickr、Del.icio.usしかソーシャルネットワークサイトがないと?そんなことはありません。

新しいものを生み出す余地は常にあります。歴史上最も暗い時代でさえ、誰もが「なぜ誰も思いつかなかったのだろう」と言うような発見がありました。2004年にFacebookが創設されるまでも、そうだったのです。ただし、厳密に言えば、誰かがそのアイデアを既に持っていたのかもしれません。

私たちが常に見落としているのは、状況に適応してしまい、それが当然のようになっていると考えてしまうからです。たとえば、Googleよりも良い検索エンジンを作ろうとするのは、ほとんどの人にとって狂気の沙汰に見えるでしょう。あの分野は飽和状態だと思われているのです。本当でしょうか。100年後、あるいは20年後でも、人々はGoogleのようなものを使って情報を検索し続けるのでしょうか。Googleの人間でさえ、そうは思っていないはずです。

特に、スタートアップの数に限界はないと思います。「今、スタートアップを立ち上げている人たちは失望するだろう。結局のところ、Googleやヤフーが買収するスタートアップはどれほどあるだろうか」と言う人がいますが、これは間違っていることを証明できます。大企業で数千人を雇用するのに限界はないのと同様に、10人ずつの小さな機敏な企業でも雇用に限界はないはずです。それを制限するのは、そこまで頑張りたいと思う人の数だけだと思います。

スタートアップの数を制限するのは、Googleやヤフーに買収されるかどうかではなく、創造できる富の量です。そしてそれには、宇宙論的な制限を除けば限界はないと思います。

つまり、スタートアップの数に実際の制限はありません。スタートアップは富を生み出し、人々が欲しがるものを作り出します。人々が欲しがるものに限界があるなら、私たちはまだそこに達していません。私にはまだ空飛ぶ車がありません。

7. 期待しすぎないこと

これは、Y Combinatorよりずっと前から繰り返してきたことです。Viawebでは実質的なモットーでした。

スタートアップの創業者は自然と楽観的です。そうでなければ始められません。しかし、あなたの楽観主義を原子炉の核のように扱うべきです。つまり、力の源泉でありながら非常に危険なものとして。それを適切に遮蔽しないと、あなたを焼き尽くしてしまいます。

原子炉の遮蔽は均一ではありません。そうだと炉が役に立たなくなってしまいます。パイプを通すために一部は遮蔽されています。楽観主義の遮蔽も同様に、一部は開けておく必要があります。私が考えるのは、自分に対する期待と他人に対する期待の間に線を引くことです。自分にできることについては楽観的でいいですが、機械や他人については最悪を想定しましょう。

これは特にスタートアップでは重要です。なぜなら、あなたがやっていることの限界に挑戦しているからです。そのため、通常の世界のようなスムーズで予測可能な進行とはならず、突然悪い方向に変わることが多いのです。

取引においてこの楽観主義の遮蔽は最も重要です。スタートアップが取引をしている場合は、それが成立しないと考えましょう。あなたに投資すると言っているVCは投資しません。買収すると言っている企業は買収しません。大口顧客として使いたいと言っている企業は使いません。そうすれば、うまくいった時に嬉しい驚きが待っています。

スタートアップに期待しすぎるなと警告するのは、失望させられるからではありません。より実用的な理由があります。つまり、倒れそうなものに会社を寄りかからせないためです。

例えば、誰かがあなたに投資したいと言ったら、自然と他の投資家を探すのをやめてしまいがちです。そういう提案をする人たちが前向きに見えるのは、あなたにそうしてほしいからです。そしてあなたも、取引は面倒だからそうしたくなるのです。特に資金調達は膨大な時間を要します。だからあえて他の選択肢を探し続ける必要があるのです。

最終的に最初の取引をしたとしても、他の選択肢を探し続けたことで有利な条件を得られるでしょう。取引は動的なものです。相手が特に正直でない限り、握手して取引が完了したわけではありません。細かな問題をクリアしていく必要があり、相手があなたの弱みを感じ取れば、その詳細で不利な条件を押し付けてくるでしょう。

VCやM&A担当者は熟練した交渉人です。弱みにつけ込むよう訓練されています。 [8] そのため、彼らはしばしば良い人物であっても、どうしても弱みを突こうとしてしまうのです。そして、彼らはあなたよりもこの手の取引に慣れています。だからブラフを試みるのは無駄です。スタートアップが取引で有利な立場にあるのは、本当にその取引を必要としていないときだけです。取引を信じていなければ、それに依存することもないでしょう。

だから、あなたの頭の中に次のフレーズが自動的に浮かぶようにしたいのです。「投資したい」や「買収したい」と言われたら、すぐに「期待しすぎるな」と。あなたの会社を、その取引がないかのように運営し続けてください。これが最も確実に取引を成立させる方法です。

スタートアップで成功するには、多くのユーザーを獲得するという目標に集中し、投資家や買収企業が金を振り回しながら追いかけてくるのを無視して、着実に前進し続けることです。

スピード、そして金ではない

私が説明したようにスタートアップを始めるのは、かなりストレスフルです。創業者全員が同じことを言っています。「大変だと分かっていたけど、想像以上に大変だった」と。

では、なぜそれをするのでしょうか。偉大なことや英雄的なことをするためなら、多くの痛苦に耐えられるかもしれません。でも、ただ金を稼ぐためなら?金を稼ぐことが本当に重要なのでしょうか。

いいえ、そうではありません。私は、ビジネスを余りにも真面目に受け止めるのは馬鹿げていると考えています。金を稼ぐことは、できるだけ早く済ませるべき退屈な用事にすぎません。スタートアップ自体に、偉大さや英雄性はありません。

では、なぜスタートアップについてこんなに考えるのでしょうか。それは、経済的にスタートアップを、金持ちになる手段ではなく、早く仕事を済ませる手段と見なしているからです。生活費は稼がなければならず、スタートアップはそれを早期に達成する方法なのです。 [9]

私たちは大半の時間それを当然のことと考えていますが、人間の生命は非常に奇跡的なものです。また、明らかに短いものでもあります。素晴らしいものを与えられ、そしてあっという間に奪われてしまうのです。人々が神々を発明するのもそれを説明するためだと分かります。しかし、神を信じない人々にとっても、生命は尊重されるべきものです。私たちの人生の中で、ほとんどの人が日々がぼやけて過ぎていくのを感じ、その際に何か大切なものを無駄にしているという感覚を持つものです。ベン・フランクリンが言ったように、人生を愛するなら時間を無駄にしないでください。時間こそが人生そのものだからです。

したがって、お金を稼ぐことに特に偉大なものはありません。それがスタートアップの価値を高めるものではありません。スタートアップにとって重要なのは速さです。生活を維持する退屈だが必要な仕事を可能な限り短い時間に詰め込むことで、生命に対する尊重を示すことができ、それには偉大なものがあるのです。

注記

[1] バグだらけのものをリリースし、それを十分に修正できないうちに死んでしまうスタートアップはいますが、非常に早期に最小限の安定したものをリリースし、それを素早く改善していくものが死んでしまったというのは知りません。

[2] これが私がまだArcをリリースしていない理由です。一度リリースすれば、機能追加を求める人々に悩まされることになります。

[3] Webサイトは、この点で書籍やムービー、デスクトップアプリケーションとは異なります。ユーザーはサイトを単一のスナップショットではなく、複数のフレームを持つアニメーションとして評価します。2つの中では、現在の位置よりも改善のスピードの方がユーザーにとって重要だと言えるでしょう。

[4] ただし、常にユーザーにこのことを伝える必要はありません。例えば、MySpaceは本質的にはモールの代替品に過ぎません。しかし、当初はバンドに関するサイトだと装っていたほうが賢明でした。

[5] 同様に、ユーザーにサイトを試すために登録させるべきではありません。あなたのサイトが非常に価値があるため、ユーザーが喜んで登録するべきだと考えるかもしれません。しかし、ユーザーはそうした期待に反するものを経験してきています。Webで試したほとんどのものが役に立たないものだったと感じているでしょう。特に、登録を求めるものほどそうだと。

[6] VCがこのように行動するのには合理的な理由があります。彼らの収益(もし収益があれば)は、典型的なファンドでは失敗する企業が半分、大半が中程度のリターンしか生まないという中で、1、2社が驚くべき成功を収めることで得られるのです。そのため、最も有望な機会をわずかでも逃すと、ファンド全体を台無しにしかねません。

[7] ランニングバックの姿勢はサッカーには当てはまりません。ディフェンダーを複数抜いてドリブルするのは見栄えがいいかもしれませんが、そうしたことを続けるプレイヤーは長期的に見れば、パスを選ぶプレイヤーよりも成績が悪くなるでしょう。

[8] Y Combinatorが評価額の交渉をしないのは、私たちが専門的な交渉人ではなく、そうなりたくないからです。

[9] 自分の好きなことで仕事をするには2つの方法があります。(a)お金を稼いでから好きなことに取り組む、(b)好きなことで稼げる仕事に就く。実際には両方とも最初の段階は退屈な雑用が中心で、(b)の2段階目はより不安定です。

Sam Altman、Trevor Blackwell、Beau Hartshorne、Jessica Livingston、Robert Morrisの各氏に、このドラフトを読んでいただきありがとうございます。